中身はおっさん、でも愛は本物。『異世界美少女受肉おじさんと』が”純愛の最高峰”である理由
「おっさん同士のラブコメで泣くことある?」——ある。あった。本気で泣いた。それがこの『異世界美少女受肉おじさんと』(原作:津留崎優/作画:池澤真、通称ファ美肉)だ。
「は?キモ」って今スマホ閉じかけたそこのあなた。ちょっと待ってくれ。分かる、その反射神経は分かる。でも3分でいいから聞いてほしい。
タイトルだけ見て「あーはいはい、ネタ枠の下ネタギャグでしょ」と判断した人、その判断、間違っている。本気で間違っている。俺はこの漫画に、人生で読んできたどのラブコメよりも殴られた。
設定は狂気、中身は純情

主人公は32歳のサラリーマン・橘日向。モテない人生をこじらせにこじらせ、「いっそ金髪美少女になってチヤホヤされたい」と愚痴った帰り道、幼馴染のスパダリ系イケメン・神宮寺司ともども、女神の気まぐれで異世界へ飛ばされる。目が覚めると、橘は本当に金髪碧眼の美少女になっていた——中身は32歳のおっさんのまま。
しかも女神の力のせいで、放っておくとふたりは互いに惹かれ合ってしまうという、控えめに言って頭のおかしい呪いつき。だから彼らは誓う。「俺たちが互いに惚れる前に、魔王を倒して元に戻る」と。
……いや、出オチだろこれ。誰がどう見ても出オチだろ。俺も最初はそう思った。舐めていた。心底舐めていた。ところがこの漫画、出オチで終わらせる気なんて最初から一切ない。むしろここからが本番なんだ。

「中身がおっさん」だから、恋が本物になる
普通のラブコメは「出会い」からときめきが始まる。でもファ美肉のふたりには、その前に30年分の友情がある。互いの情けなさも、意地っ張りなところも、譲れない一線も、全部知り尽くした親友同士。その関係の土台の上に、女神の呪いという「言い訳」を挟んで、恋がじわじわと染み込んでいく。
分かってほしいのは、この作品のドキドキは見た目が美少女だからでは断じてないということだ。「こいつのことを、俺は昔からずっと知っている」という積み重ねが、ふとした瞬間に恋として発火する。それだけの話なんだ。照れて悪態をつく橘も、無自覚に距離を詰める神宮寺も、恋愛経験値ゼロのおっさんそのもの。その不器用さが、その辺の少女漫画の恋愛描写より遥かにピュアだと言い切る。異論は認める。でも俺は認めない。
ギャグの布石が、全部エモに回収される
本作の基本リズムは「ハイテンションギャグ→不意打ちの純情」。異性を魅了しすぎるスキル「絶世の美貌」で野盗が勝手に仲間割れする、みたいなバカバカしい展開でゲラゲラ笑わせておいて、次のページで急に、相手を想う一言を静かに置いてくる。この緩急、控えめに言って卑怯だ。
笑っている間に防御力を根こそぎ下げられているので、直球の感情描写が刺さる刺さる刺さる。「ギャグ漫画だと思って油断していたら泣かされた」という読者報告が絶えないのは、この構造のせいだ。俺も油断していた側の人間だ。完全に不意を突かれた。

無料で読める範囲だけで、もう十分事件
声を大にして言いたい。この感動、連載サイト『サイコミ』の無料公開範囲だけで十分味わえる。序盤の数話で、このふたりの関係性の尊さは完全に伝わる。伝わった上で、続きが読みたくて仕方なくなる。金を払う前に、まず無料の部分で殴られてほしい。
「おっさん×おっさんのラブコメ」と聞いて笑った人ほど読んでほしい。断言する。その笑いは、読んだ後に必ず違う感情に変わる。性別も見た目も飛び越えて、「この人だから好きだ」に辿り着く物語。
ラブコメの皮を被った、純愛の最高峰がここにある。この結論に、多少の反論があるのは分かっている。それでも俺はこの評価を撤回するつもりはない。
『異世界美少女受肉おじさんと』原作:津留崎優/作画:池澤真(サイコミ連載中・既刊18巻/2022年TVアニメ化)
※本文中画像出典:TVアニメ『異世界美少女受肉おじさんと』公式サイト(tv-tokyo.co.jp/原作:津留崎優・作画:池澤真/ファ美肉製作委員会)
